
こんにちは。管理栄養士のてんぱぱぱです。
今回は、第32回日本静脈経腸栄養学会学術集会 スポンサードシンポジウム 「がん専門家を志す人の栄養療法シンポジウム」より、「高度侵襲手術における栄養療法についてー免疫療法を中心にして」の内容をご紹介します。
演者は千葉大学大学院 医学研究院 臓器制御外科学 古川勝規先生 です。
免疫療法とは「どのような栄養療法なのか」、「どーいった効果が期待できるのか」といった基礎的な内容もありますので興味がある方は読んでみて下さい。
- ガイドラインで推奨される高度侵襲手術での栄養療法の方法には、術前免疫栄養と術後早期経腸栄養がある
- 免疫栄養はその有用性が多数報告されており、量や味に配慮された栄養補助飲料を活用することで患者の負担軽減につながり得る
栄養障害と周術期合併症
栄養障害は術後合併症の発生を増加させることが報告されている。
2016年には、490例の腹部手術例を対象とした検討において、栄養障害が合併症、在院日数、医療費、再入院、死亡率を悪化させることが明らかになった。
さらに、多変量解析の結果、栄養障害は在院日数(入院期間の延長)、医療費(高額入院費)の危険因子であった。
高度侵襲手術と栄養療法
高度侵襲手術における栄養介入には、術前栄養療法と術後早期経腸栄養がある。
術前栄養療法の適応について、JSPENのガイドラインでは以下のように記載されている。
JSPENガイドライン(2013)
- 術前に中等度ないし高度の栄養障害に陥っている患者が術前栄養療法の適応である(AI)
- 術前栄養療法の第一選択は経腸栄養である(AI)
一方、術後早期経腸栄養の有効性としては、消化器手術患者307例を術後早期経腸栄養群、術後TPN群とで比較した結果、早期経腸栄養群はTPN群に比べて合併症が減少し、在院日数が短縮したことが報告された。
免疫栄養の適応
免疫栄養とは、アルギニン、ω-3系脂肪酸(EPA、DHA)、核酸を含む栄養補助飲料を周術期に投与することにより、術後合併症の抑制を目指す栄養療法である。
免疫栄養を用いた栄養療法は、消化器手術患者における合併症の減少に有効なことが明らかにされている。
高齢、膵臓手術、体重減少、低アルブミン血症は感染性合併症の危険因子であり、特に免疫栄養が合併症低減に寄与することが報告されている。
これらの臨床研究に基づき、JSPENガイドラインでも免疫栄養が推奨されている。
JSPENガイドライン(2013)
- 術前の免疫賦活経腸栄養投与は感染性合併症を有意に減少させる(BⅡ)
免疫栄養の有用性
当教室では、消化器手術の中でも侵襲が高い膵頭十二指腸切除後における免疫栄養の有用性を検討した。
膵頭十二指腸切除における術前免疫栄養の有用性
<対象>
待機的に膵頭十二指腸切除を受ける50例
<方法>
無作為に2群に割り付け比較検討した。
- 免疫栄養群:術前5日間、アルギニン・EPA飲料(1000kcal/日)と普通食半量(1000kcal/日)を摂取
- コントロール群:術前に普通食(2000kcal/日)を摂取
<結果>
- 免疫栄養群では、コントロール群に比べ、感染性合併症の発症が有意に低下した。重症度スコアも免疫栄養群で低地を示した。
- 免疫栄養群では、血漿IL-6が有意に低下した。
アルギニン・EPA飲料
我々が臨床試験で使用しているアルギニン・EPA飲料は、国内外の多くの臨床試験で用いられ、高いエビデンスが得られているものである。
しかしながら、従来の製品は味に難点があり、摂取総量も多くなるため飲みにくいという患者の声もあった。
2017年にリニューアルされたアルギニンEPA飲料は、アルギニン・EPAを集中して摂取するというコンセプトは変わらず、よりおいしく、飲みやすくなった。
患者にとって朗報である。
当科では、これまでに1日4パック(1000ml)を使用してきたが、新しいアルギニンEPA飲料は5パック(625ml)になり、全体の摂取総量が減り、患者の負担軽減につながり得ると考える。
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