低栄養と認知の関連性とは

病院栄養士の仕事
てんぱぱぱ
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こんにちは。管理栄養士のてんぱぱぱです。

今回は認知症や軽度認知症の方に対する栄養・食事支援について説明していきます。

 

認知症と栄養学の関係について、近年研究が進み、高齢者の低栄養が認知症の発症や発症後の進行にも関わることが分かってきました。

今回は高齢者の栄養状態と認知症の関係や、認知症患者さんに対する栄養・食事支援のあり方について考えていきます。

 

低栄養が認知症のリスクに

認知症は、記憶障害や判断力低下などの認知機能障害(中核症状)を起こして、日常生活に支障をきたす病気です。

原因疾患によって、アルツハイマー型認知症血管性認知症などいくつかの種類があります。

認知症の種類など、基礎知識についてはこちらの記事でまとめています↓
認知症とはどんな病気? 認知症の基本知識編

多くの場合、その発症メカニズムはまだはっきりとは解明されておらず、根本的な治療は確立されていません。

 

そのような中注目されているのが、食事の改善による認知機能への効果です。

体重や低栄養状態が、認知症の発症や進行に関係していることがわかってきたからです。

 

中年期(45~65歳未満)の場合、肥満が認知症の危険因子になります。

肥満は脳の前頭葉の委縮と関連があると言われています。

一方、高齢者(65歳以上)の場合、肥満は脳に保護的に働き、認知症発症のリスクを軽減し、逆に体重減少(やせ)が認知症のリスクになります。

その理由はまだ明らかになっていませんが、認知症と診断される10年前から体重減少がしばしば見られることもわかっています。

実際外来での診察時、体重の変化を確認すると「体重が減ってきた」という認知症患者さんは多くいます。

原因不明の体重減少によって、認知症が発見された高齢者の例も少なくありません。

 

また、もの忘れセンターで調査したところ、認知機能が低下した人ほど、栄養状態が悪いことも確認されています。

高齢者の場合は、肥満よりも体重減少・低栄養に注意する必要があります。

 

今後、特に重要となるのが軽度認知障害(MCI)への対応でしょう。

MCIとは、認知症の前段階として、「認知症ではない加齢による認知機能低下を超えた認知障害がある状態です。

MCIの段階で栄養状態の悪化は始まっています。

ただし、MCIの人すべてが認知症へ進行するわけではなく、なかには認知機能が低下する前の状態に戻る人もいます。

MCIのうちに、認知症発症のリスクとなる低栄養を予防・改善することは、認知症予防にとって重要なファクターのひとつであると考えられます。

 

認知症の進行にも関連する低栄養

低栄養は、認知症発症後の症状にも関連することが報告されています。

認知症患者を栄養状態が良好な群、低栄養リスクがある群、低栄養の群に分けて、症状の変化を比較した研究では、栄養状態が悪くなるほど認知機能が低下することがわかっています。

 

中等度から重度のアルツハイマー型認知症の患者を対象にした別の調査では、低栄養や体重減少が、認知機能の低下、施設への入居や死亡率の増加と関連していること、意識低下や徘徊、興奮といった認知症の行動・心理症状(BPSD)を悪化させることなど報告されています。

認知症の進行をできるだけ遅らせるためには、食生活や栄養を適正に管理することが大切です。

 

認知症患者に対する栄養・食事支援のポイント

では、認知症の患者さんの低栄養を予防・改善するために、栄養士はどのような食事・栄養指導を行えばよいのでしょうか?

その主なポイントを以下にまとめます。

患者さんの状態を把握する

認知症とひと言でいっても、患者さんによってその症状や経過は異なるため、それぞれの状態に合わせた対応が必要になります。

まずは、それぞれの食事量や栄養状態はもちろん、認知症の進行度、嗅覚や味覚の状態、口腔機能を含めた嚥下機能、運動機能、精神状態(うつ)、服用している薬の影響などをチェックして、食事に関わる患者さんの状態を把握することが大切です。

 

原因疾患別の特徴に合わせた対応

認知症は原因疾患によって食行動に特徴があるため、低栄養を防ぐには、それぞれに合わせた対応が必要です。

あらかじめ原因疾患別の特徴を頭に入れておくといいでしょう。

アルツハイマー型認知症

<原因疾患>

記憶をつかさどる脳の海馬にある神経細胞が死滅していくことで起こる。最も患者数の多い認知症。

 

<主な食行動の異常>

  • 食べ物を認識し、何をどのように食べるか判断する機能に障害が起きる(食品パックの開封方法など)
  • 食具の使い方が分からなくなる
  • 意欲が低下して食欲も低下する
  • 食べ過ぎる
  • 末期になると摂食嚥下障害が出てくる

 

<栄養・食事支援の例>

  • 食べ方や食具の使い方がわかるように声掛けする
  • その人が認識できる位置に食器を配置する
  • 情報量が多いと混乱するので、食器の数を減らす
  • 嚥下機能に合わせた食形態に変更する

 

レビー小体型認知症

<原因疾患>

レビー小体という異常なたんぱく質の塊ができて起こる。幻視やパーキンソン病のような手足の震え・緩慢な動作といった症状が特徴。

 

<主な食行動の異常>

  • 嚥下機能(舌運動機能や食べ物を飲み込む機能)が低下する。
  • 自律神経の乱れによって、うつ症状や便秘が起こり、食欲が低下する。
  • 食卓の上に虫がいるように見えたりする。

 

<栄養・食事支援の例>

  • むせたり、いつまでも飲み込まなかったりする場合は、その人の嚥下機能に合わせた食形態に変更する。
  • 模様が少ない食器を使う。

 

血管性認知症

<原因疾患>

脳梗塞や脳出血などによっ脳血管に障害が起き、一部の脳細胞が死滅して起こる。

 

<主な食行動の異常>

  • 運動・感覚麻痺のために食事がとれない。
  • 嚥下障害が起こって、特に液体が飲みにくくなる。
  • 意欲低下が起こりやすい。
  • すべての食事が認知できなくて、食べ残しをする。

 

<栄養・食事支援の例>

  • 飲み物や汁物でむせやすい場合は、とろみをつけて飲み込みやすくする。
  • リハビリテーションによって、意欲を回復させたり、嚥下機能の低下を防ぐ。

 

前頭側頭型認知症

<原因疾患>

神経細胞が変性し、前頭葉や側頭葉前方が委縮して起こる。暴力的になったり、常識外れの行動をしたり、人格や性格が極端に変わってしまう。

 

<主な食行動の異常>

  • 食事や味、行動に強いこだわりを示す。
  • 食欲が増進して、特に甘いものを欲するようになる。
  • 特定の食品に固執する。

 

<栄養・食事支援の例>

  • 血糖上昇を抑えるような人工甘味料を使うようにする。
  • 食事以外の興味を引く動作への誘導を試してみる。

 

不足しやすい栄養素を補う

1日3食、食事を摂っていても、主食(炭水化物)中心で、肉や魚、野菜が不足している認知症患者さんが多く見られます。

特に不足しやすい栄養素は、ビタミンA、葉酸、ビタミンB12、ビタミンD、ビタミンC、ビタミンEなどです。

これらを意識的にとってもらえるような指導や工夫を心がけましょう。

特に葉酸には、脳の神経保護作用があり認知症予防にかかせない栄養素であるため、積極的に摂取してもらうとよいでしょう。

 

多様な食材を使用する

中高年期にさまざまな食品を摂取することは、認知機能の低下を抑えるという研究結果が報告されています。

ホテルの朝食バイキングのように、さまざまな食材を摂れるのが理想的です。

 

食事を楽しめる環境づくりを

食事はおいしさや幸福感を味わったり、人とコミュニケーションを楽しんだりする場でもあります。

食事自体が楽しめるよう、献立や盛り付けを工夫したり、環境を整えたりすることも大切でしょう。

それが食欲増進にもつながります。

 

 

以上のような対応は、できれば認知症になる前の段階(MCI)から行うことが望ましいでしょう。

それによって栄養状態が良好に保てれば、認知症のリスク軽減が期待できます。

また認知症予防のためには、食事以外の生活習慣の改善も必要です。

栄養士による食事管理、週1回のジムでの運動習慣、生活習慣病の治療を同時に行うことで、認知症の進行を抑制できることが世界中の研究で実証され始めています。

いずれ研究が進めば、認知症のための栄養指導についても具体的なプログラムがつくられると思います。

今後、認知症の予防・治療に携わるチームの一員として、栄養士の役割はますます重要になっていくでしょう。

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